観光施設(ホテル・旅館)における 空調・換気によるコロナウィルス感染防止について

2020/09/08

はじめに

公益社団法人国際観光施設協会交流部会設備部会において、厚生労働省および空気調和・衛生工学会による最新の情報 12)に基づき、観光施設(ホテル・旅館)における新型コロナの感染防止を念頭に、空調・換気にともなう室内空間の感染リスクに関する見解をまとめた。

1.飛沫と飛沫核について

感染リスクは、直接の飛沫による感染や飛沫に触れることによる接触感染と、空気中に一定時間浮遊する飛沫や飛沫核による感染に分けて対策を検討する必要がある。

大きな飛沫は空中で速く沈降するため、その飛沫に含まれる病原体の伝播は発生源近傍に限られるが、小さな飛沫は1m以内の短い範囲まで飛散する。飛沫感染に関しては感染者から12m以上の距離を保つことが推奨されており、この飛沫感染を一般的な空調・換気により防ぐことは難しい。人と人との距離を保つこと、マスク、フェイスシールド、パーティションなどで飛沫を避けることや付着した飛沫への接触を避けることが重要である。また、付着した飛沫の消毒清掃によりウイルスへの接触を避けることやこまめな手洗いが重要となる。具体的な感染防止対策については、「4.関係協会等のガイドライン」に詳細が示されているため遵守するよう心掛ける必要がある。

一方、水分が蒸発した後の飛沫核は空中で遠くまで拡散することがわかっている。

2.空調・換気と感染リスク

新型コロナウィルス感染症対策専門家会議の見解によれば、これまで集団感染が確認された場所で共通するのは、①換気の悪い密閉空間、②多くの人が密集していた、③近距離での会話や発声が行われたという3つの条件が同時に重なった場合であるとしている。リスク要因の一つである「換気の悪い密閉空間」に該当することを防ぐための空調・換気の効果が期待されている。

空調・換気による感染リスクの低減は、感染性飛沫と飛沫核の空気中濃度を換気(外気の導入)による希釈とフィルタによる空気中からのろ過によって低下させることにより達成される。

換気について、厚生労働省では、「建築物衛生法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)における空気環境の調整に関する基準に適合していれば、一般的な建築物の空気環境の基準を満たすこととなるため「換気が悪い空間」には当てはまらないと考えられる。」とし、換気の方法を、機械換気による方法と窓の開放による方法に分け、以下のように管理権原者に推奨している。3)

①機械換気(空気調和設備、機械換気設備)による方法

建築物衛生法における特定建築物1に該当する建物については、建築物衛生法に基づく空気環境の調整に関する基準が満たされていることを確認し、満たされていない場合、換気設備の清掃、整備等の維持管理を適切に行うこと。

特定建築物に該当しない建物においても、建築物衛生法の考え方に基づく必要換気量が確保できていることを確認すること。必要換気量が足りない場合は、一部屋あたりの在室人数を減らすことで、一人あたりの必要換気量を確保することも可能であること。

1 建築物衛生法における特定建築物とは、興行場、百貨店、集会場、図書館、博物館、美術館、遊技場、店舗、事務所、旅館等の用途に供される延べ床面積が3,000㎡以上の建築物をいう。

窓の開放による方法

・換気回数を毎時2回以上(30分に一回以上、数分間程度、窓を全開する。)とすること。

・空気の流れを作るため、複数の窓がある場合、二方向の壁の窓を開放すること。窓が一つしかない場合はドアを開けること。

一方、フィルタによるろ過については、日本のホテル・旅館などの空調機には、一般的に中性能フィルタが備えられており、大きい飛沫核に対する捕集効果が期待できるとされている。

以上より,ホテル・旅館などのレストラン・喫茶、宴会場等において、建築物衛生法に基づく空気環境の調整に関する基準が満たされ、中性能フィルタが備えられている空調・換気システムでは、12mを超える範囲で飛沫や飛沫核として新型コロナウィルスが拡散したとしても、その濃度は低く制御されるため、感染リスクは小さいと考えられる。

ただし、「換気の悪い密閉空間」はリスク要因の一つに過ぎないこと、換気性能やフィルタの捕集性能の維持管理が重要であること、曝露濃度に加えて曝露時間も感染を左右する要因となる可能性があることにも注意が必要である。

なお、客室については、集団感染の確認された多くの人が密集する空間には当たらないと考えられるため、人と人との距離を保つことや、各所に付着した飛沫への接触による感染を防ぐために、宿泊客の入替に伴う適切な消毒清掃などの汚染除去による感染対策に注力する必要がある。

3.感染対策時の熱中症予防

空調・換気の機能と感染リスクの関係を理解し、感染対策を徹底するとともに、これまでと異なる生活環境の下で気温の高い日が続くこれからの時期に向け、熱中症による健康被害を防ぐために、適切に冷房機器を運転することが重要である。

厚生労働省は526日に「新しい生活様式」における熱中症予防行動のポイントをまとめている。4)感染対策のために換気量を確保することで生じる室内温度の上昇やマスク着用によって熱中症リスクが高くなる恐れがあることに触れ熱中症予防行動の留意点を説明している。空調・換気に関する具体的なポイントとして、熱中症予防のためにエアコンを運転し、こまめに温度設定を調整することを挙げている。

4.関係協会等のガイドライン

観光や観光施設全般に対するコロナ対策については、関係団体が新型コロナウィルス感染症対策コロナウィルス専門家会議「新型コロナウィルス感染症対策の状況分析・提言」(202054日)に基づき各種ガイドラインを定めている。5)

日本旅行業協会、全国旅行業協会

「旅行業における新型コロナウィルス対応ガイドライン(第2版)202071日」

新型コロナウィルス感染症対策コロナウィルス専門家会議「新型コロナウィルス感染症対策の状況分析・提言」(202054日)の中にある「各業種のガイドライン等の作成に当たって求められる基本的な考え方や留意点の例」等に留意しながら、新型コロナウィルスス感染症の終息までの、旅行業における当面の対策をとりまとめている。

全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会、日本旅館協会、全日本シティホル連盟

「宿泊施設における新型コロナウィルス対応ガドラン( 第1版 )2020514

2020521日一部改訂)」

新型コロナウィルス感染症対策専門家会議「新型コロナウィルス感染症対策の状況分析・提言」(202054日)の中にある「各業種ガイドラン等作成当たって求められる基本的な考え方や留意点の例」 等に留意しながら、 新型コロナ ウイルス感染症の流行が終息するまで当面の対策をとりまとめている。

一般社団法人日本ホテル協会

「ホテル業における新型コロナウィルス対応ガドラン( 初版 )2020514日」

厚生労働省「旅館等の宿泊施設における新型コロナウィルス感染症への対応について」(令225日)で示された「留意事項」、「新型コロナウィルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養のための宿泊施設確保業務マニュアル」(423日)、政府のコロナウィルス感染症に対する基本的対処方針」(54日改正)、新型コロナウィルス感染症対策専門家会議「新型コロナウィルス感染症対策の状況分析・提言」(202054日)の中の「新しい生活様式の実践例」等を踏まえホテル業界が取り組んできた新型コロナウイル市感染症の新型コロナウィルス感染症の予防対策をまとめている。

5.まとめ

①特定建築物に該当し建築物衛生法を遵守して計画・運用されているホテル・旅館においては、換気とフィルタの性能を勘案すれば、人員密度が適切に管理されている限り空調システムを介した室間の感染拡大のリスクは低いものと考えられる。

②特定建築物に該当しないホテル・旅館においては、設計者や換気の専門業者に依頼し、換気量がどの程度あるかを確認した上で、一人あたりの必要換気量が確保できるよう、部屋の内部の利用者数の上限を把握し適正に管理することが必要となる。

③適切な換気量を確保した上で、夏季においては熱中症対策としての冷房が必要である。

④自然換気が可能な場合、室温を維持できる範囲で窓開け等による更なる換気量の確保が望ましい。*ただし,窓開けによる自然換気により、エアバランスが崩れる、建築物環境衛生管理基準が遵守できなくなる等の可能性があることに注意が必要である。

⑤具体的な感染防止対策については、関係団体のガイドラインに遵守するよう心掛ける必要がある。

(参考文献)

1):厚生労働省:商業施設等における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気について

  https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000616069.pdf

2):空気調和衛生工学会:空調・換気によるCOVID-19 の拡散 はあるのか?

  http://www.shasej.org/recommendation/covid-19/2020.06.15

3):厚生労働省:「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法

  https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000618969.pdf

4):厚生労働省:令和2年度の熱中症予防行動の留意点について

  https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000635190.pdf

5):新型コロナウィルス感染症対策専門家会議「新型コロナウィルス感染症対策の状況分析・

提言」(202054日)

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/senmonkakaigi/sidai_r020504_1.pdf

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